卒業式

学校全体

春の薫りに包まれる、この佳き日に、卒業を迎える皆さん、本日は誠におめでとうございます。
六年間という、長いようで短い時間を経て、皆さんは今、新しい道への第一歩を踏み出そうとしています。今日は、そんな皆さんに「余白」 という言葉を贈りたいと思います。

近年、研究や技術の進歩により、人間や動植物にとって「最低限必要なもの」が何かが少しずつ明らかになりつつあります。何を食べれば生きられるのか、何があれば成長できるのか――科学の力によって、そうした答えが次々と示されています。

しかし、ここで皆さんに問いかけたいのです。

「本当に、必要最低限のそれだけがあれば、充実した楽しい人生が送れるのでしょうか?」

人生は、最低限の必要なものだけで成り立つわけではありません。無駄と思われる時間や遠回りした経験、ふと目にした風景、何気なく耳にした音、そしてふと感じた匂いや味――こうした一見「周辺にあるもの」が、実は皆さんの中に豊かな人生を形作る大切な一部となるのではないでしょうか。
それら、余白の部分こそが、人生に深みを与え、本当の意味での「幸せ」を作り出すものではないでしょうか。

これからの社会では、AIをはじめとするさまざまな技術の進化によって、より効率的でコストパフォーマンスの良い生き方が可能になるかもしれません。生成AIがアイデアを生み出したり、問題を解決したり、最短距離で目標を達成する手助けをしてくれるでしょう。こうした便利な道具を活用することは、決して悪いことではありません。むしろ、皆さんの未来を切り拓くための強力な助けとなるでしょう。

ただ、それだけで満足してほしくはありません。無駄や余白の中で得られるものの価値を、どうか忘れないでください。効率的に生きるだけではなく、寄り道をしたり、興味を持ったものに飛び込んだり、時には「何のため?」と答えのないことに時間を費やしてみてください。夢中になれること、その時間が、皆さんの人生を豊かにし、得られる幸せを何倍にもしてくれるかもしれません。

小学校を卒業しても、皆さんには無限の選択肢と可能性が広がっています。その中で、迷ったり失敗したりすることもあるでしょう。でも、それこそが人生の「余白」です。その余白をどう活かすかによって、皆さんの未来はさらに豊かで素晴らしいものになるはずです。
どうか、自分のペースで、時には立ち止まり、遠回りもしながら、自分だけの「幸せ」を見つけてください。

改めまして、卒業生の皆さん、そして保護者の皆様、卒業おめでとうございます。これからの皆さんの人生が、「余白」も含めて、輝きに満ちたものとなることを、心から願っています。

令和7年3月25日
杉並区立松ノ木小学校 校長 笠原 秀浩

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